「AIによる税務調査が本格化するらしいが、具体的に何が変わるのだろうか」
「自社が調査対象にならないか不安だ」と感じている経営者や経理担当者の方は多いのではないでしょうか。2025年から、国税庁によるAIを活用した税務調査が本格的に始動します。これは、過去の膨大な申告データや公開情報をAIが分析し、調査すべき対象を自動でリストアップする新しい仕組みです。
この記事では、AI税務調査の具体的な仕組みから、AIに狙われやすい申告の特徴、そして今から準備すべき対策までを網羅的に解説します。最後まで読めば、漠然とした不安を解消し、来るべき変化に備えるための具体的な行動計画を描けるようになるでしょう。AIを活用した業務効率化やデータ管理体制の構築に関心のある方は、ヒントとなる情報も紹介しています。
AI税務調査とは?国税庁が進めるDX化の現在地

結論として、AI税務調査とは、国税庁が推進する「税務行政のDX」の一環であり、AIを用いて申告漏れのリスクが高い納税者を効率的に選定する新しい手法です。過去の膨大な申告・納税データや業務で蓄積された知見をAIに学習させ、調査の精度と公平性を高めることを目的としています。(出典:税務行政のDXの取組状況について) これは、経験豊富な調査官のノウハウをAIが補完・支援し、より的確な調査の実現を目指すものであり、最終的な判断は人間(税務職員)が行うことが想定されています。
国税庁が推進する「税務行政のDX」の概要
国税庁は「税務行政のDX~税務行政の将来像2.0~」を公表し、納税者の利便性向上と、調査・徴収の効率化・高度化を2つの柱としてデジタル化を推進しています。 この中で、AIやデータ分析技術の活用は中核的な取り組みと位置づけられています。これまで調査官の経験や勘に頼っていた部分をデータに基づいて客観的に判断することで、課税の公平性を担保し、限られた人員で効果的な調査を行う狙いがあるのです。
この取り組みは、単に調査を厳しくするだけでなく、納税者がよりスムーズに申告できる環境整備も含まれます。例えば、チャットボットによる問い合わせ対応の自動化や、各種手続きのオンライン化などがその一例です。
相続税分野で先行するAI活用の動き
AIを活用した税務調査は、まず相続税の分野で活用が進められています。相続税は申告内容が複雑で、財産評価や名義預金など、調査が難しい項目が多いため、AIによる分析が有効と判断されました。一部報道によれば、相続税の調査対象を選定する作業において、2025年7月からAIによる本格運用が始まる見込みです。(出典:幻冬舎ゴールドオンライン)
相続税での活用を皮切りに、今後は法人税や所得税など、他の税目にもAIの活用範囲が拡大していくことは確実視されています。企業や個人事業主にとっても、この動向を注視していく必要があるでしょう。
税務調査におけるAIの具体的な活用方法

税務調査においてAIは、人間では不可能な規模と速度でデータを処理・分析し、調査の精度を飛躍的に向上させます。具体的には、国税庁が保有する内部データと、インターネット上などの外部データを組み合わせ、申告内容の異常値を自動で検知する役割を担います。これにより、調査官はAIが検出したリスクの高い案件に集中できるようになるのです。
過去データ学習とリスクスコアリングによる調査対象の選定
AIの最も重要な活用法が、リスクスコアリングによる調査対象の選定です。国税庁が管理する納税者の過去の申告データ、業種別の平均的な利益率、過去の不正事例のパターンなどをAIに学習させます。その学習モデルを使い、新たに提出された申告書データを分析し、不正や申告漏れの可能性を点数化(スコアリング)します。(出典:公益財団法人納税協会連合会)
AIはスコアリングによる優先度付けや異常値検出を行い、調査官がその結果をもとに調査対象を最終決定します。この仕組みにより、調査官の主観を排した、データに基づく客観的な対象選定が可能になるのです。
SNSやインターネット情報の自動収集・分析
AIの能力は、申告書などの内部データ分析だけにとどまりません。SNSへの投稿、企業の公式ウェブサイト、不動産登記情報、各種メディアで報じられたニュースなど、インターネット上で公開されている膨大な情報(オープンデータ)を自動で収集・分析します。(出典:ITmedia NEWS)
AIは、あくまで申告内容と実態が乖離している可能性を示す情報を検知し、調査官にアラートを上げる役割を担います。これにより、資産隠しや売上除外などの不正行為がより一層発覚しやすくなるのです。
次世代型へ移行するKSKシステムとAIの連携

AI税務調査の精度を支える根幹となるのが、KSKシステム(国税総合管理システム)の存在です。この巨大なデータベースに蓄積された情報とAIが連携することで、これまで以上に高度な分析が可能になります。国税庁は2026年9月からの次世代システムへの完全移行を目指しています。
KSKシステム(国税総合管理システム)の役割
KSKシステムとは、全国の国税局や税務署をオンラインで結び、納税者の申告内容、納税履歴、過去の調査記録といった、あらゆる税務情報を一元的に管理するシステムです。2001年から本格稼働しており、このシステムにより、国税庁は全国の納税者の情報を瞬時に検索・照合できるようになり、税務行政の効率を大幅に向上させてきました。
現在、AIが分析するための元データの多くは、このKSKシステムから供給されています。いわば、KSKシステムはAI税務調査を実現するための「データ基盤」と言えるでしょう。
2026年以降の次世代システムへの完全移行
現行のKSKシステムは稼働から20年以上が経過し、システムの老朽化などの課題を抱えています。そこで国税庁は、より柔軟で拡張性の高い次世代システムの開発を進めており、2026年9月24日からの完全移行を目指しています。(出典:税務行政のDXの取組状況について)
次世代システムでは、クラウド技術の活用やデータ分析基盤の強化が図られます。これにより、AIが必要とするデータをより迅速かつ柔軟に提供できるようになり、AI分析の精度や速度が飛躍的に向上すると期待されています。リアルタイムに近い形での不正検知など、さらに高度な調査手法が導入される可能性もあります。
AI税務調査が納税者・企業に与える影響

AI税務調査の本格化は、納税者や企業に多岐にわたる影響を与えます。最も大きな変化は、これまで見過ごされてきた可能性のある軽微なミスや、巧妙に隠された不正が格段に発見されやすくなる点です。一方で、適正な申告と納税を行っている大多数の納税者にとっては、調査対象に選ばれる確率が低下するという側面もあります。
具体的には、以下のような影響が考えられます。
- 調査対象選定の客観化・公平化
AIがデータに基づいてリスクを判断するため、調査官の個人的な経験や勘に左右されることが減り、より客観的で公平な調査対象の選定が行われるようになります。 - 調査の深度化と効率化
AIが事前に問題点を洗い出すことで、調査官は限られた時間の中で、より深く的を絞った調査を行うことができます。これにより、調査期間の短縮化も期待されます。 - 追徴課税のリスク増大
申告漏れや計算ミス、意図的な不正などがAIによって高精度で検出されるため、結果として修正申告や追徴課税に至るケースが増加する可能性があります。 - 説明責任の重要性の高まり
AIが「異常値」と判断した取引について、なぜそのような数値になったのかを合理的に説明する責任が、納税者側により一層求められるようになります。日頃からの証拠書類の管理がこれまで以上に重要です。
AIに狙われやすい申告の特徴とは?

AIは、膨大なデータの中から「通常とは異なるパターン」いわゆる「異常値」を検出することを得意としています。そのため、AI税務調査では、過去のデータや同業他社の平均値から大きく外れた申告内容が、特に注意深くチェックされることになります。自社の申告内容に不自然な点がないか、客観的に見直すことが重要です。
売上と経費の急激な変動
前年度と比較して、売上や特定の経費科目が急激に増加または減少している場合、AIはそれを異常値として検知する可能性が高いです。例えば、売上が倍増しているにもかかわらず、仕入高がほとんど変わらない、あるいは広告宣伝費や交際費だけが突出して増加しているといったケースが挙げられます。
もちろん、事業環境の変化による正当な理由がある場合も多いでしょう。その際に、なぜそのような変動があったのかを、契約書や請求書、議事録などの証拠書類に基づいて明確に説明できるかどうかが鍵となります。
同業他社と比較して異常な数値
KSKシステムには、業種や事業規模ごとの詳細な統計データが蓄積されています。AIはこれらのデータを活用し、同業他社と比較して利益率や原価率、経費率などが大きく乖離している企業をリストアップします。例えば、同じ地域の同規模の飲食店と比較して、原価率が極端に低い場合、「売上の一部を除外しているのではないか」という疑念を持たれる可能性があります。
自社の経営指標が、業界の標準的な数値から大きく外れていないか、定期的に確認しておくことが望ましいでしょう。
海外取引や富裕層特有の複雑な取引
タックスヘイブンを利用した国際取引、暗号資産(仮想通貨)やNFT(非代替性トークン)といった新しい形態の資産取引、富裕層向けの複雑な節税スキームなどは、国税庁が特に監視を強化している分野です。これらの取引は金の流れが不透明になりやすく、AIによる重点的な分析対象となります。
特に海外の関連会社との取引価格を不当に操作する「移転価格税制」に関する問題や、海外資産の申告漏れなどは、AIと国際的な情報交換ネットワークを駆使して厳しくチェックされることになります。
AI税務調査時代に備えるための3つの対策

AIによる高度な分析に対抗するための最善策は、税務の基本に立ち返り、日々の会計処理の正確性を高めることです。特別な裏技は存在しません。正確な記帳、証拠書類の保管、そしてデジタルツールの活用という3つの基本を徹底することが、結果的に最も有効な防衛策となります。
1. 日常的な記帳・証拠書類の正確な管理
最も重要かつ基本的な対策は、日々の取引を正確に会計帳簿へ記帳し、その根拠となる領収書、請求書、契約書などの証拠書類を整理して保管することです。AIが指摘する「異常値」に対して、「なぜこの取引が必要だったのか」「なぜこの金額になったのか」を客観的な証拠で説明できる状態を常に維持しておく必要があります。
特に、2024年1月から本格施行された電子帳簿保存法への対応は必須です。電子取引のデータは原則としてデータのまま保存する必要があり、このルールに従っていない場合、青色申告の承認が取り消されるリスクもあります。 法令に準拠した書類管理体制を構築しましょう。(出典:電子帳簿保存法特設サイト)
2. クラウド会計ソフトの導入とデータ連携
手作業による記帳やExcelでの管理は、入力ミスや計算間違いといったヒューマンエラーが発生しやすくなります。クラウド会計ソフトを導入すれば、銀行口座やクレジットカードの取引データを自動で取り込み、仕訳を自動で提案してくれるため、業務効率が向上すると同時に、記帳の正確性も格段に高まります。
また、多くのクラウド会計ソフトは電子帳簿保存法にも対応しており、法令に準拠したデータ保存が容易になります。デジタル化された正確な会計データは、AIによるチェックに対しても、強力な「証拠」となり得るのです。
3. 税理士など専門家への早期相談
会計処理や税務判断に迷う取引が発生した場合、自己判断で処理してしまうのは危険です。特に、不動産の売買や設備投資、新しい事業の開始など、金額の大きな取引や特殊なケースでは、早い段階で顧問税理士などの専門家に相談することが不可欠です。
専門家のアドバイスに基づいた適切な会計処理は、税務調査で指摘を受けるリスクを大幅に低減させます。また、万が一税務調査の対象となった場合でも、顧問税理士が間に入ることで、納税者の主張を論理的に代弁し、円滑なコミュニケーションをサポートしてくれます。
税務行政のDX化で変わる今後の展望

税務行政のDX化は、AIによる調査の高度化だけに留まりません。今後は、納税者一人ひとりの状況に応じた、よりパーソナライズされたサービスの提供と、さらなる事務処理の自動化が進むと予測されます。「申告・納税」から「調査・徴収」まで、あらゆるプロセスがデジタルで完結する未来が訪れるでしょう。
将来的には、AIが納税者の申告データをリアルタイムで分析し、軽微な誤りであれば即座にシステムが修正を促すといった仕組みも考えられます。また、国税庁のウェブサイトに搭載されたチャットボットが、より複雑な税務相談にも24時間対応できるようになるかもしれません。
さらに、マイナンバー制度との連携が深化し、給与や年金、医療費などの情報を基に、確定申告書の大部分が自動で作成される「申告レス」の世界も視野に入ってきます。納税者にとっては利便性が向上する一方で、国税庁が個人の資産や所得をより正確に、かつ網羅的に把握する社会になることを意味します。このような変化に対応するためにも、企業や個人は自らの財務状況を正確にデータで管理するリテラシーが不可欠となるでしょう。
税務調査対策で経理のAI化を目指したいならAX CAMP

AI税務調査の本格化は、すべての企業にとって経理・財務プロセスの見直しを迫る大きな転換点です。日々の正確なデータ管理と、それを支える業務フローのデジタル化は、もはや単なる効率化の問題ではなく、企業の存続に関わる重要な経営課題と言えるでしょう。しかし、「どこから手をつければいいのか分からない」「自社だけでDXを進めるには人材がいない」といった悩みをお持ちの企業も少なくありません。(出典:PR TIMES)
私たちAX CAMPが提供する法人向けAI研修・伴走支援サービスは、単にAIツールの使い方を教えるだけではありません。貴社の業務内容を深く理解した上で、AIを活用して経理業務全体をいかに効率化し、人的ミスを削減できるか、具体的な業務改善プランの策定から実行までをサポートします。実際に、導入企業様からは数々の成果報告が寄せられています。
- WISDOM様:AI導入で採用2名分の業務をAIが代替
- グラシズ様:LPライティング外注費10万円→0円、制作時間3営業日→2時間
- Route66様:原稿執筆時間24時間→10秒
AIに「狙われる」側になるのではなく、AIを「活用する」側に立つことで、来るべき変化を乗り越え、むしろ競争力強化の機会とすることができます。自社の経理体制に少しでも不安を感じる方、データに基づいた強固な経営基盤を構築したい方は、ぜひ一度、無料相談にてお悩みをお聞かせください。
まとめ:AI税務調査の本格化に備え、適正な申告体制を構築しよう
本記事では、本格化しつつあるAI税務調査の動向と、企業や個人事業主が取るべき対策について解説しました。AIの導入により、税務調査はより効率的かつ高度なものへと進化していきます。
最後に、重要なポイントを改めて確認しましょう。
- AI税務調査は高度化が進行中:国税庁のDX推進の一環で、KSKシステムのデータなどを活用し調査対象を自動で選定。相続税分野で先行導入が進んでいます。
- AIは「異常値」を検出:売上や経費の急な変動、同業他社との乖離、SNSなどの外部情報がチェック対象となります。
- 対策の基本は正確な記録:日々の正確な記帳と証拠書類の管理が最も重要です。
- デジタル化が有効な防御策に:クラウド会計ソフトの導入は、業務効率化と正確性の向上に直結します。
- 専門家への早期相談:判断に迷う点は税理士に相談し、リスクを未然に防ぎましょう。
AI税務調査は、適正に申告を行っている納税者にとっては、過度に恐れる必要はありません。しかし、これを機に自社の経理体制を見直し、データに基づいた透明性の高い経営へとシフトしていくことが求められます。AX CAMPでは、専門家の伴走支援を通じて、記事で紹介したような盤石な経理・財務体制の構築をサポートします。AI時代に即した業務プロセスの変革にご興味があれば、お気軽にご相談ください。
