生成AIの業務活用に期待が高まる一方、「情報漏洩や著作権侵害のリスクが怖くて、本格的な導入に踏み切れない」とお悩みの企業は少なくありません。従業員が個人の判断でAIを使い始め、意図せず機密情報を入力してしまう「シャドーIT」のリスクも顕在化しています。安全なAI活用と生産性向上を両立させるためには、企業の実態に即した「生成AIガイドライン」の策定が不可欠です。
この記事を読めば、ガイドライン策定の具体的な手順から、盛り込むべき必須項目、さらには雛形として参考にできる公的機関の最新情報まで、網羅的に理解できます。自社に合ったルールを整備し、競争力を高めるための第一歩を踏み出しましょう。AIの導入やルール策定に関するご相談は、弊社の「AX CAMP」でも承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
なぜ今、生成AIガイドラインが必要なのか?

企業の成長と競争力を維持するために、生成AIガイドラインの策定は急務となっています。その理由は、単にリスクを回避する「守り」の側面だけではありません。従業員が安心してAIを活用し、生産性を最大化させる「攻め」の側面も持ち合わせているからです。明確なルールがない状態では、従業員はAIの利用をためらい、企業は大きな機会損失を生む可能性があります。
増加するセキュリティ・コンプライアンスリスクへの対策
ガイドラインが必要な第一の理由は、セキュリティリスクとコンプライアンス違反を防ぐためです。従業員が会社の許可なく個人で生成AIツールを利用する「シャドーIT」は、重大なインシデントを引き起こす危険性をはらんでいます。
例えば、業務効率化を目的として、従業員が機密情報や顧客の個人情報を含むデータを生成AIに入力してしまうケースが考えられます。多くの公開AIサービスでは、入力データがAIの学習に利用される可能性があり、意図せず第三者に情報が漏洩するリスクが伴います。実際に、国内外の企業で従業員が機密性の高いソースコードを入力し、情報が流出した事例も報告されています。(出典:従業員がChatGPTに機密情報を入力して情報流出する事例が複数発生)このような事態は、企業の信頼を著しく損なうだけでなく、法的な責任問題にも発展しかねません。
ただし、AIへのデータ利用ポリシーは、プロバイダーや契約形態によって大きく異なります。特にAPI経由での利用や法人向けのエンタープライズ契約では、入力データを学習に利用しないと規約で定めている場合がほとんどです。明確なガイドラインを設け、利用できるサービスや契約形態、そして入力してはいけない情報の種類を定義することで、こうしたリスクを組織的に管理できるようになります。
著作権侵害などの法的リスク回避
法的リスクの回避も、ガイドラインが不可欠である重要な理由の一つです。生成AIは、インターネット上の膨大なデータを学習してコンテンツを生成しますが、その学習データには著作権で保護されたコンテンツが含まれている可能性があります。そのため、生成AIが作成した文章や画像が、既存の著作物と酷似し、著作権侵害にあたるリスクが常に存在します。
実際に、大手写真提供サービスが、自社のコンテンツが無断で学習データに使用されたとして、AI開発企業を提訴する事例も起きています。(出典:画像生成AI「Stable Diffusion」に対する集団訴訟。画像素材サイトGetty Imagesも)生成物が第三者の著作権を侵害する場合、契約関係や利用規約、具体的な事情により利用者にも責任が生じる可能性があるため、商用利用前には利用規約の確認と権利クリアランスの手順を設けることが重要です。法的な結論はまだ確定していませんが、ガイドラインで生成物の商用利用ルールや著作権の確認手順を定めておくことで、こうした法的紛争を未然に防げます。
従業員のAIリテラシー向上と生産性の最大化
ガイドラインは、リスク管理だけでなく、従業員がAIを積極的に活用するための「羅針盤」としての役割も担います。ルールが曖昧な状態では、従業員は何をどこまで試して良いのか分からず、便利なはずのAI活用に萎縮してしまいます。これでは、せっかくの生産性向上の機会を逃すことになりかねません。
「この範囲内なら安全に使える」という明確な基準を示すことで、従業員は安心して新しい活用法を試し、試行錯誤の中から業務効率を劇的に改善するアイデアを生み出せます。実際に、弊社のAI研修「AX CAMP」を導入し、ガイドラインを整備した企業様では、具体的な業務改善の成果が生まれています。
このように、ガイドラインは従業員のAIリテラシーを底上げし、組織全体の生産性を最大化するための重要な土台となるのです。次のセクションでは、実効性のあるガイドラインに盛り込むべき具体的な項目を解説します。
生成AIガイドラインに盛り込むべき主要項目

実効性のある生成AIガイドラインを作成するためには、網羅すべき重要な項目がいくつかあります。単に禁止事項を並べるだけでなく、利用の目的から緊急時の対応までを明確にすることで、従業員が迷わず、かつ安全にAIを活用できる基盤が整います。ここでは、最低限盛り込むべき主要な5つの項目について解説します。
1. 利用目的と基本方針の明記
まず、「何のために生成AIを導入するのか」という目的を明確に定義することが重要です。例えば、「定型業務の効率化による生産性向上」「データ分析精度の向上による意思決定の迅速化」「新たなコンテンツ生成によるマーケティング活動の強化」といった具体的な目的を掲げます。
目的を明らかにすることで、従業員はガイドラインの意図を理解しやすくなります。さらに、企業のAI活用に対する基本方針(例:「リスクを適切に管理し、積極的に活用を推奨する」など)を示すことで、全社で一貫した姿勢でAI導入を進めることができます。
2. 利用ルールと禁止事項(情報入力・データ保護)
ガイドラインの中で最も重要なのが、具体的な利用ルールと禁止事項の明記です。情報漏洩リスクを回避するため、入力してはならない情報を明確にリストアップする必要があります。これには、以下のような情報が含まれます。(出典:How your data is used to improve model performance)
- 顧客情報・個人情報
- 社外秘の技術情報・財務情報
- 未公開の研究開発データ
- 取引先との契約内容
- 従業員の個人情報
「いかなる場合でも、許可なく機密情報と個人情報は入力しない」という原則を徹底させることが、セキュリティの第一歩です。また、利用するAIサービスのデータ利用方針やDPA(データ処理契約)を確認する手順を定め、学習データへの利用を許可していない、セキュリティ基準を満たしたサービスのみを利用するよう規定することが重要です。
3. 著作権・知的財産権の取り扱い
生成AIの利用において、著作権侵害は重大な法的リスクです。ガイドラインでは、著作権や知的財産権の取り扱いについて明確なルールを定める必要があります。具体的には、以下の点を明記します。
- 生成物の商用利用の可否と条件
- 利用するAIツールの規約確認義務
- 生成物が他者の著作権を侵害していないかの確認手順
- 生成物の著作権の帰属(会社または個人)
特に、広告やプレゼンテーション資料など、社外向けコンテンツにAI生成物を利用する場合は、人間による最終的なチェックと、必要に応じた出典の確認を義務付けることが重要です。これにより、意図しない著作権侵害のリスクを大幅に低減できます。
4. 生成物の正確性とファクトチェックの義務
生成AIは、事実に基づかないもっともらしい情報を生成する「ハルシネーション」という現象を起こすことがあります。このリスクを周知し、対策を義務付けることは極めて重要です。ガイドラインには、「生成AIからの出力を鵜呑みにしない」という基本原則を明記し、必ず人間によるファクトチェックを行うことを義務付けなければなりません。
特に、数値データ、法律や規制に関する情報、専門的な技術情報など、正確性が求められる内容については、信頼できる一次情報源での裏付けを必須とします。生成された情報の責任は、最終的にそれを利用した人間にあることを明確にし、安易な利用を防ぐ必要があります。
5. セキュリティとガバナンス(アクセス管理・罰則)
ガイドラインの実効性を担保するためには、違反した場合の措置を明確にしておくことが不可欠です。就業規則と連携させ、ガイドライン違反が懲戒処分の対象となり得ることを明記します。これにより、ルール遵守の意識を高めることができます。
同時に、罰則だけでは従業員が萎縮してしまうため、気軽に相談できる窓口の設置も同様に重要です。また、誰がどのAIサービスを利用しているかを管理するためのアクセス制御や監査ログの要件を定め、組織としてのガバナンスを効かせる体制を整えることが、安全なAI活用に繋がります。
生成AIガイドライン策定の具体的な手順(4ステップ)

実用的で形骸化しないガイドラインを策定するためには、計画的なアプローチが求められます。トップダウンで一方的にルールを押し付けるのではなく、現場の実態を把握し、関係者を巻き込みながら進めることが成功の鍵です。ここでは、具体的な4つのステップに分けて、策定の進め方を解説します。
ステップ1:利用実態の把握とリスクの洗い出し
最初のステップは、現状把握です。従業員がすでにどのような生成AIツールを、どの業務で、どの程度の頻度で利用しているのかを調査します。アンケートやヒアリングを通じて、公式に導入されていないツールが使われている「シャドーIT」の実態も明らかにします。
利用実態が見えてきたら、次に自社特有のリスクを洗い出します。例えば、開発部門ではソースコード、営業部門では顧客情報、人事部門では従業員の個人情報など、部署ごとに入力される可能性のある機密情報を特定します。この「現状把握」と「リスクの具体化」が、実態に即したガイドラインを作るための土台となります。
ステップ2:関連部署(法務・人事・IT)との連携体制構築
生成AIガイドラインの策定は、単独の部署で完結するものではありません。法務、コンプライアンス、人事、IT、そして実際にAIを利用する事業部門など、関連部署を横断したプロジェクトチームを組成することが不可欠です。
各部署が専門的な知見を持ち寄ることで、多角的な視点からリスクを検討できます。
- 法務部門:法的リスク(著作権、個人情報保護法など)の評価
- IT部門:セキュリティリスクの評価と安全なツールの選定
- 人事部門:服務規律や罰則規定との整合性
- 事業部門:業務上の利便性と現場の意見のフィードバック
このような連携体制を構築することで、内容の妥当性が高まり、全社的な合意形成もスムーズに進みます。
ステップ3:ガイドライン案の作成とレビュー
連携体制が整ったら、いよいよガイドラインの草案を作成します。ステップ1で洗い出したリスクへの対策を盛り込みつつ、後述する経済産業省などの公的機関が公開しているガイドラインを雛形として活用すると効率的です。
たたき台が完成したら、プロジェクトチーム内でレビューを行います。ここでは、「ルールが厳しすぎて業務の妨げにならないか」「表現が曖昧で誤解を招く恐れはないか」といった観点から議論を重ねます。現場の意見を十分にヒアリングし、理想論だけでなく、現実的に運用可能な内容に落とし込むことが極めて重要です。
ステップ4:全社への周知と定期的な見直し
ガイドラインが完成したら、それで終わりではありません。最も重要なのは、その内容を全従業員に周知し、遵守してもらうことです。社内ポータルへの掲載だけでなく、説明会や研修会を実施し、策定の背景や具体的な注意点を直接伝える機会を設けましょう。
また、生成AIの技術や関連法規は日々進化しています。一度作成したガイドラインがすぐに陳腐化してしまう可能性も少なくありません。そのため、最低でも半年に一度、あるいは新しい技術やサービスが登場したタイミングで内容を見直す運用ルールをあらかじめ決めておくことが、ガイドラインの実効性を維持するために不可欠です。
【2025年】参考にすべき公的機関・団体の主要ガイドライン

生成AIガイドラインをゼロから作成するのは大変な作業です。幸い、国内の省庁や専門機関が、企業が参考にできる質の高いガイドラインを公開しています。これらの公的ガイドラインを雛形として活用することで、自社の状況に合わせてカスタマイズするだけで、網羅的かつ信頼性の高いルールを効率的に策定できます。
経済産業省「AI事業者ガイドライン」
経済産業省が総務省と共同で2024年4月に取りまとめた「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」は、日本におけるAIガバナンスの統一的な指針です。(出典:「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」を取りまとめました) このガイドラインは、AIの開発者や提供者だけでなく、AIを利用する事業者(ユーザー企業)も対象としており、AIを事業で活用するすべての企業が参照すべき基本的な文書と位置づけられています。
特に、AI利用者に求められる責務として、適切なリテラシーの確保や、生成物のファクトチェック、情報セキュリティの確保などが明記されており、社内ガイドラインの基本方針や目的を定める上で非常に参考になります。
日本ディープラーニング協会(JDLA)「生成AIの利用ガイドライン」
日本ディープラーニング協会(JDLA)は「生成AIの利用ガイドライン」(2023年5月公開、同年10月に第1.1版へ改訂)と「生成AIの利用ガイドライン(画像編)」(2024年2月公開)を提供しています。(出典:JDLA、企業向け「生成AIの利用ガイドライン 第2版」を公開) このガイドラインは、企業がそのまま雛形として利用できるよう、具体的な条文形式で作成されており、法務担当者やDX推進担当者にとって非常に使いやすい資料となっています。
利用目的、禁止事項、知的財産権、免責事項といった必須項目が網羅されているだけでなく、テキスト生成AIと画像生成AIそれぞれの注意点についても解説されています。自社のガイドラインに具体的な項目を落とし込む際に、大いに役立つでしょう。
情報処理推進機構(IPA)「生成AI導入・運用のためのセキュリティガイドライン」
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公開している正式名称は「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン」で、導入時のセキュリティ対策などを詳しく解説しています。(出典:テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン) 情報システム部門やセキュリティ担当者が必ず目を通すべき資料と言えるでしょう。
プロンプトインジェクションのような生成AI特有の攻撃手法や、入力情報の漏洩リスク、安全なサービス選定のポイントなどが技術的な視点から詳細に解説されています。ガイドラインの中でも、特にセキュリティポリシーやツールの利用基準を定める際に、具体的な対策を講じるための強力な指針となります。
実践的な生成AI活用とガイドライン策定ならAX CAMP

生成AIガイドラインを策定することは、安全なAI活用の第一歩ですが、ルールを作っただけで従業員の生産性が自動的に向上するわけではありません。本当に重要なのは、ガイドラインという安全な土台の上で、いかに従業員一人ひとりがAIを使いこなし、具体的な業務成果に結びつけるかです。
しかし、「ルールは作ったものの、具体的な活用方法が社内に浸透しない」「どの業務にAIを適用すれば効果が出るのかわからない」といった新たな課題に直面する企業は少なくありません。弊社が提供する実践型AI研修「AX CAMP」は、まさにそうした課題を解決するために設計されています。
AX CAMPでは、単なるツールの使い方を学ぶだけでなく、貴社の業務内容や課題に合わせた実践的なカリキュラムをご提供します。経験豊富なコンサルタントによる伴走支援を通じて、ガイドライン策定のご相談から、現場の業務に即したAI活用の定着までを一気通貫でサポートします。実際にAX CAMPを導入いただいた企業様からは、以下のような成果が報告されています。
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- 株式会社WISDOM様:AI導入により、採用2名分の業務をAIで代替することに成功。
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まとめ:自社に合った生成AIガイドラインで安全な活用を
本記事では、生成AIガイドラインの必要性から、盛り込むべき主要項目、具体的な策定手順、そして参考にすべき公的ガイドラインまでを解説しました。安全なAI活用と生産性向上を両立させるためには、自社の実態に即したルール作りが不可欠です。
最後に、本記事の要点をまとめます。
- ガイドラインの必要性:セキュリティ、法的リスクから企業を守り、従業員の生産性を最大化するために必須。
- 主要項目:「利用目的と基本方針」「利用ルールと禁止事項」「著作権」「ファクトチェック義務」「セキュリティとガバナンス」を必ず盛り込む。
- 策定の4ステップ:「利用実態の把握」→「連携体制の構築」→「案の作成とレビュー」→「周知と定期的な見直し」の順で進める。
- 公的ガイドラインの活用:経産省、JDLA、IPAなどが公開する雛形を参考にすると効率的。
ガイドラインの策定はゴールではなく、スタートです。本当に重要なのは、そのルールを全社に浸透させ、日々の業務の中でAIを効果的に活用していく文化を醸成することにあります。AX CAMPでは、ガイドライン策定のコンサルティングから、従業員一人ひとりのスキルアップを支援する実践的な研修まで、貴社のAI活用をトータルでサポートします。専門家の支援を受けながら、リスク対策と生産性向上を同時に実現したいとお考えでしたら、ぜひお気軽に無料相談会へお申し込みください。
